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福利厚生費に関する税務


先ず、何故、福利厚生費が如何なるものかという疑問が生じたり、実務上、その範囲の確認が必要なのかというと、法人税上、原則として損金不算入とされている交際費と対をなすからです。
(注:期末の資本の金額が1億円以下の法人については、定額控除限度額400万円を超える金額と定額控除額に達するまでの金額の10%相当額が損金不算入となり、最大360万円まで損金算入が出来ます。)
(注の注:資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人に係る交際費課税について、平成21年4月1日以後に終了する事業年度から、定額控除限度額を年400万円から年600万円に引き上げられましたので、定額控除限度額600万円を超える金額と定額控除額に達するまでの金額の10%相当額が損金不算入となり、最大540万円まで損金算入が出来ます。)
福利厚生費であれば、交際費ではないと租税特別措置法通達(以下、「措通」という。)61の4(1)−1で定義をしている関係上、交際費を確定する上で、交際費でないとされる福利厚生費の範囲を確認することが必要になります。

(交際費等の意義)
措通61の4(1)−1 措置法第61条の4第3項に規定する「交際費等」とは、交際費、接待費、機密費、その他の費用で法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいうのであるが、主として次に掲げるような性質を有するものは交際費等には含まれないものとする。
(1)  寄附金
(2)  値引き及び割戻し
(3)  広告宣伝費
(4)  福利厚生費
(5)  給与等

また、福利厚生費として支出された金額が、それを受ける従業員等から見たときに、所得税法上課税されるべき経済的利益となるのか否かという問題が有ります。課税すべき経済的利益については、経済的利益を受けた従業員等は勿論給与所得として課税されますが、会社側も賞与として源泉徴収する必要が出てきます。
この場合、会社側は源泉徴収していなかった源泉税について不納付加算税がかかると同時に、経済的利益を受けた者が役員であった場合、役員に対する賞与として法人税課税上、損金とならなくなりますので、注意が必要です。

以下に御質問の具体例について、私見を申し上げます。

1.還暦のお祝い会

専ら、従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用は福利厚生費となります。還暦のお祝い会は、従業員の勤労意欲を増して社業を増進させる為の使用人のためのレクリエーション(労働再生産のために必要なもの)と考えるならば、上記の「運動会、演芸会、旅行など」と同列であり、福利厚生費で支出されるべきものであると考えます。同時に、所得税基本通達(以下、「所基通」という。)36−30にあるように、従業員等の側では、所得税は課税されません。

但し、行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を含む。)に支給する金銭や、役員だけを対象に費用を負担する場合については、給与等として課税することになるので注意が必要です。

(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)

所基通36−30 使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない。

2.還暦のお祝い会の記念品

 還暦のお祝い会の記念品は、新卒で入社し、定年まで勤め上げる従業員だけで構成される会社の場合には、永年勤続表彰の性格を有することとなりますが、中途採用等が有る場合には、永年勤続しなくとも、この還暦のお祝い会の対象となるため、永年勤続表彰の規定に拠るよりも、一般的な規定に拠り、結婚祝、出産祝、香典、病気見舞い等と同じ扱いをすべきと考えます。
 従いまして、下記(2)に規定されている会社側の「一定の基準」を書面にて残しておくと、税務調査の際に問題が無いと思います。

(福利厚生費と交際費等との区分)

措通61の4(1)−10 社内の行事に際して支出される金額等で次のようなものは交際費等に含まれないものとする。
(1)  創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際し従業員におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用
(2)  従業員(従業員であった者を含む。)又はその親族等の慶弔、禍福に際し一定の基準に従って支給される金品に要する費用

 また、記念品を受け取った従業員側の所得税課税については、下記の所基通28−5にあるとおり、社会通念上相当と認められるもの範囲であれば課税されません。

(雇用契約等に基づいて支給される結婚祝金品等)
所基通28−5 使用者から役員又は使用人に対し雇用契約等に基づいて支給される結婚、出産等の祝金品は、給与等とする。ただし、その金額が支給を受ける者の地位等に照らし、社会通念上相当と認められるものについては、課税しなくて差し支えない。

3.創立記念行事に関する支出

(1). 従業員等のみで内輪で行なう飲食費用
 上記の措通61の4(1)−10の(1)に従い、飲食に要する費用は、福利厚生費に該当します。従業員側も上記の所基通28−5により、所得税は課税されません。

(2).得意先及び従業員を招待して行なう創立記念パーティ等
 従業員等のみで内輪で行なう記念行事ではなく、得意先等を招待した場合には、以下の措通61の4(1)−15の(1)に従い、飲食に要する費用のみならず、交通費、記念品代(従業員への記念品代を除く)も交際費となります。記念品を郵送した場合には、その郵送料も交際費となります。

(交際費等に含まれる費用の例示)

措通61の4(1)−15 次のような費用は、原則として交際費等の金額に含まれるものとする。
(1)  会社の何周年記念又は社屋新築記念における宴会費、交通費及び記念品代並びに新船建造又は土木建築等における進水式、起工式、落成式等におけるこれらの費用(これらの費用が主として61の4(1)−10に該当するものである場合の費用を除く。)
(注)
進水式、起工式、落成式等の式典の祭事のために通常要する費用は、交際費等に該当しない。
(以下(2)から(11)の例示は省略。)

 この場合の「得意先等」とは、自社の従業員も含まれますので、パーティ代のうち、人数比等で従業員の分を福利厚生費とすることは出来ません。

(交際費等の支出の相手方の範囲)
措通61の4(1)−22 措置法第61条の4第3項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接当該法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく間接に当該法人の利害に関係ある者及び当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意する。

(3).従業員等へ交付する創立記念品費用

 上記(2).で述べたように、得意先等を呼んだ創立記念パーティを行なった場合には、全ての飲食代、交通費、得意先への記念品費用が交際費になりますが、記念品のうち、従業員等に対するものは、原則、給与となります。但し、処分見込価格が1万円以下であり、おおむね5年以上の期間ごとに支給するものであるときは、課税されません。
私見ですが、ブランド商品(創立記念品にはあまり用いられませんが)等の換金性の高いものを除き、質屋で処分した場合、購入価格の10分の1以下になるのが処分見込価格の通例だと考えます。
(課税しない経済的利益……創業記念品等)
所基通36−22 使用者が役員又は使用人に対し創業記念、増資記念、工事完成記念又は合併記念等に際し、その記念として支給する記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。ただし、建築業者、造船業者等が請負工事又は造船の完成等に際し支給するものについては、この限りでない。
(1)  その支給する記念品が社会通念上記念品としてふさわしいものであり、かつ、そのものの価額(処分見込価額により評価した価額)が1万円以下のものであること。
(2)  創業記念のように一定期間ごとに到来する記念に際し支給する記念品については、創業後相当な期間(おおむね5年以上の期間)ごとに支給するものであること。

(4).永年勤続者への表彰にかかる費用

 永年勤続者への表彰において、金銭もしくはの換金性の高い有価証券、商品券、金貨、旅行クーポン券等の記念品を授与した場合には、給与(賞与)として処理され、これらの授与を受けた永年勤続者は所得税が課税されます。
 しかしながら、以下の所基通36−21に示したとおり、金銭若しくは換金性の高い記念品ではなく、その金額が社会通念上相当であり、概ね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者については、概ね5年以上の間隔をおく場合には、永年勤続者は所得税が課税されず、会社の側も福利厚生費で処理をします。
 なお、上記の旅行クーポン券は、授与後1年以内にその使用を確認している場合には、給与として課税する必要はありません。(昭和60.2直法6-4)

(課税しない経済的利益……永年勤続者の記念品等)
所基通36−21 使用者が永年勤続した役員又は使用人の表彰に当たり、その記念として旅行、観劇等に招待し、又は記念品(現物に代えて支給する金銭は含まない。)を支給することにより当該役員又は使用人が受ける利益で、次に掲げる要件のいずれにも該当するものについては、課税しなくて差し支えない。
(1)  当該利益の額が、当該役員又は使用人の勤続期間等に照らし、社会通念上相当と認められること。
(2)  当該表彰が、おおむね10年以上の勤続年数の者を対象とし、かつ、2回以上表彰を受ける者については、おおむね5年以上の間隔をおいて行われるものであること。

4.忘年会・新年会・特殊業務の業務達成打上会・年度末打上会の費用、人事異動による歓送迎会の費用

 上記の「還暦のお祝い会」と同じく、専ら、従業員の慰安のために行われ、従業員の勤労意欲を増して社業を増進させる為のレクリエーション(労働再生産のために必要なもの)で有るならば、福利厚生費と考えます。また、所基通36−30により、従業員等への所得税の課税はありません。